クレイン日記


図書出版クレイン の日々の記録
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by cranebook | 2015-09-17 16:45 | 雑感

金鶴泳の墓所に参りました。

 9月15日火曜日に、金鶴泳の出身地にある高崎市新町の彼の眠る専福寺に参ってきました。
 今年2015年は彼の没後30年になりますので、5年ぶりになりますが行ってきました。
 と同時に、今年は佐藤泰志の没後25年にあたります。佐藤泰志のほうは、小説「オーバーフェンス」が第三弾として映画化されることもあり、さまざまにイベントが彼の出身地・函館を中心に行なわれます。

 私にとっては、佐藤泰志も金鶴泳も大切な作家。一方の作家が没後25年ということでスポットライトを浴びているのに、もう一方の没後30年の作家を無視することができるはずがないじゃないですか

 ということで参ってきました。もちろん一人でです。平日の昼間に出発したのですが、湘南新宿ラインの高崎行きにうまくアクセスできず、途中までの湘南新宿ラインと高崎線を乗り継ぎ、行きは2時間30分かかりました。5年前はそうでもなかったのですが、今回は疲れました。50代半ば近くともなると、さすがに、きついきつい。

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 さて、3時頃に高崎線の新町駅に到着。さっそく専福寺に向かいました。駅から徒歩で10分ほどです。
 歩いているうちに、懐かしい風景に出くわします。県道178号線を歩いて行ったのですが、この沿線は、いまは寂れていますが、かつては、にぎわっていたであろう、商店街の面影を、ところどころに見受けることができます。
 
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 県道沿線の洋装店です。金鶴泳の小説に、実家が洋装店を営む女性に好意を寄せつつも、自分が朝鮮人であり、また彼女もそのことを知っていることで、二人のあいだになんとなく距離感が生まれていて、積極的にアプローチできないことに悩む青年を描いた作品がありますが、その小説のことを思い出しながら、シャッターを切っておりました。ひょっとして、この店がそうなんじゃない……。

 
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 ほどなくして専福寺に着きました。この門をくぐると墓所へと続きます。その墓所の最奥あたりに金鶴泳の眠る場所があります。ひときわ目立つ、金家先祖代々のお墓です。
 
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 途中のマーケットで購入した献花を供え、地酒「谷川岳」で献杯です。
 そして、いくつかの報告をさせていただきました。午後二人だけの時間。それにしても「谷川岳」はおいしかった。
 こんなことも、小旅行の楽しみですね。そうです。もう、このときには、小旅行気分でした。金さん、ゴメンなさい。なにしろ帰りには同じく地酒「高崎」まで購入したのですが、これまたうまかったー。近頃、日本酒にはまっているもので、ついつい……。
 
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 その後、専福寺に隣接する諏訪神社の境内をぶらつきました。
 この境内は、金鶴泳の小説によく登場します。放課後の遊び場として、お祭りの練習場として、失恋の悲しみに暮れる場所として……。なかでも、つぎのような場面を忘れることはできません。それはこんな場面です。

 主人公の少年は、暴力的な父がいる暗い雰囲気漂う自宅が大嫌いです。放課後に境内で友だちと遊んでいても、夕刻になり、辺りが暮れなずむと、またあの家に帰らなければならないのかと、とても暗い気持ちになります。その一方、彼と遊んでいる友だちたちは、夕餉の待つ自宅へ嬉々として帰っていきます。彼らのそんな表情を主人公の少年はうかがうにつけ、うらやましくてうらやましくて仕方がありません。自分は、少しでも帰宅時間を延ばしたいのに、彼らは、うれしそうに帰っていく。そこに、彼らの家庭の暖かみを感じ、それとは反対の自らの家庭の暗さを確認する少年の哀しみが、象徴的に表現されています。
 こうした描写に私は、読者として胸打たれました。そのことが、私が金鶴泳の愛読者になったいちばんの理由です。
 なにしろ、私の生まれ育った家庭も父の暴力を伴う、とても暗いものでしたから、その少年の心情がわかりすぎるぐらいわかるんですね。遊び場に最後に一人残されて、帰宅するときの、それはそれはさみしくも哀しい心の中を。
 
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 そして、主人公の少年は、この諏訪神社の参道を力なく帰っていきます。
 この参道もこうして見てみると、みじかい小さな参道ですが、金鶴泳の小説に登場する少年の目からすれば、なんと、大きくて重たい存在であったことでしょう。
 私もゆっくりこの参道を通ってみました。

 こうして、金鶴泳の墓所に参った一日が終わりました。
 ひさしぶりに思いに残る時間になりました。

 金さん、 ゆっくりお眠りください。
 また、いずれ来させていただきます。
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by cranebook | 2015-09-17 15:50 | 刊行物関連